インタビュー
アジアの女性と子 どもネットワーク
今回のインタビュー記事は日本からお届けします。日本支部第一弾です!
タイの山岳地帯で活動をしている、“お母さん” 団体、アジアの女性と子どもネットワーク(以下、AWC)さん。
AWCさんは、急速に発展したアジアで取り残された社会的弱者の人権侵害を解決するために活動している団体です。同じアジアに住む人として、親として、彼らと自分自身のために活動をしていきたいという観点から活動を続け、今年創立20周年を迎えます。
本日は、事務局長の山本博子さんにお話を伺いました。


―「訪問したチェンマイの山岳地帯の村の教育の状況にショックを受けた。」
Q. タイの山岳民族の教育の現状を見て団体を設立されたということですが、その時のお話を教えてください。
A. たくさんの親子が就学の機会を求めて座り込んでいたのだけど、お母さんと離れて、泣いてご飯も食べられないような状況で。面倒くさがって学校に行かない子が普通にいるような日本の学生の状況と、タイの学校に行きたいのに行けない子どもたちの状況を比べて、「これは放っておいちゃいけないな」「子どもたちが親と離れて泣かなくていいような学校を作りたい」と思ったんです。そして、私のうちの住所と電話番号で事務所を立ち上げました。
《 なんとこの事務所の立ち上げは、タイに滞在している3日間で行われたことだそうです。このスピード感と自分たちがなんとかしなきゃという熱意の強さに驚きました。》
Q. 山本さんがボランティアを始められた理由を教えてください。
A. 以前からタイの子どもへの支援の依頼は受けていたんだけど特に気にかけていませんでした。でも娘が中学入試に合格して肩の荷が下りて余裕ができたのか、心にふっと入ってきたんです。そして、知らない国の子どもたちのことを心に留めてこなかったことに気づいて愕然としました。そういうことを知らないまま自分だけ快適に暮らしていくこともできるけど、自分のことだけ考えている人生をなんて寂しいんだと思ったのがきっかけです。
―「手順とか計画ではない。子どもたちのためになることなら、なんでもする」
Q.帰国された後最初にされた活動である「エイズをとめて」「子どもたちを売らないでプロジェクト」について教えてください。
A. 1997年(アジア通貨危機の年)タイバーツを変動相場制に移行したことで、まず最初にしわ寄せがきたのは、貧しい人たちです。山岳民族などの日雇い労働者が大量に解雇され、村に人身売買が横行していた状況をなんとかしたいという相談をソーシャルワーカ
ーのジャナロンさんから受けました。前年に、募金やリサイクルで貯めた20万円で協力することを決め、村の人への啓発のための教材を作成、提供しました。「子どもを売らないで」という内容の啓発VTRを山岳民族の7つの言語で作って、キャラバンで放映するアニメやドラマの間にコマーシャルのような形で流しました。
そんな中、日本に目を向けると、日本は人身売買の買い手国側。日本の印刷技術の良さと相まって、子どものポルノの一大生産地なっていました。ところが、ユニセフが「犯罪です子ども買春」というポスターを作っていたのにも関わらず、それが日本でどこにも貼られていないことを知ったんです。これは貼ろうってすぐ日本ユニセフ協会に電話して、結構向こうも貼られてなくて必死だったから、すぐに貼る許可をいただくことができました。さらにロビー活動の一環として、国会の議員名簿をもらって、「この審議を早く進めてください」と、一人ひとりにはがきやFAXを送る活動も行いました。
《 山本さんは、当時を振り返り、「団体としては、子どもたちのためになること(AIDSをなくす等)、自分たちの想いに見合うことだったら何でもしていた。私自身は、それに加えて『自分を人間として大きくしたい』という想いも強かった。」とおっしゃっていました。迅速な対応、行動力には驚くとともに、熱い想いを感じます。》
―AWCの素人感が成功の秘訣
「いろんな団体を支援してきたけど、ここまで馬鹿正直にお金を全部寄付する団体ははじめて」
Q. 団体設立の目的となった学校建設について、第一回目の学校建設プロジェクトはどのような経緯で始まったのでしょうか。
A. 代表がNTTドコモの社長さんと対談する機会があって、そのときの話の中でうちの会社がお金出してあげるから明日会社にいらっしゃい!と言って下さったんです。とにかく学校が建つことが嬉しくて、建設が進んでいく度にこんな風になりました!と写真入りの資料を持って報告に行っていましたね。そんな私たちの素人ぶりに戸惑われていたようですが、ある意味そこで信用を得ることができたんじゃないかと。落成式に自分たちが参加する渡航費を入れずに見積もりを出したら、「いろんな団体を支援してきたけど、ここまで馬鹿正直にお金を全部寄付する団体ははじめて」と言われました。この第一回学校建設が寄付を有効に活用して、しっかりと実施されたので、10校まで建てましょうという話になり、次からは自分たちの渡航費もしっかり請求してくださいと言われたんですが、結局その後3校目まで自分の費用で落成式に参加していました。
《 少しでも子どもたちのためにという誠実さが、NTTドコモさんとの信頼関係を築き、新しい支援につながっていると実感しました。》
また、学校が建ったのは良かったものの机といすが足りない状況に気づいて、「デスク&ライスプロジェクト」として寄付を募りました。寄付をしてくださった方には、自分の名前が刻まれた机の写真と共に、お礼のお便りを必ず送っています。
Q. プロジェクトごとに寄付を募る形は珍しいと思うのですが、なぜ会員制ではなくこのような方式をとっているのですか。
A. 会費が具体的に何に役立っているのか見えないより、現実こういうことに使いますとプロジェクトごとに寄付を集め結果もきちんと報告する団体にしたい、という代表の思いに基づいています。実際このことで信頼を得ることができました。
Q. 活動を通じて苦労した経験がありましたら教えて下さい。
A. 大失敗してしまった経験が何度かあります。例えば、ミャンマーのある村の学校に給食代を送ったところ、外国人から寄付をもらったということで政府からスパイじゃないかという疑いをかけられ、当時まだ軍事政権だったので学校の職員が軍隊に連れて行かれるという事態になってしまいました。その後スタッフが訪れると、村長さんに「おまえたちが来ると村の人がみんな連れてかれるからもう来るな」と言われてしまいました。
―“家族のような雰囲気”の団体
Q. 高校での講演会など広報活動を積極的に行っているように見えるのですが、反響などやってよかったと思ったことはありますか。
A. 私は高校生に話すとき、子どもの問題だからこそ子どもがわかることがたくさんあると思うから、わかったらぜひその問題を解決するためには何をしたらいいか考えて、必ず行動に移して欲しいということを伝えています。高校での講演後など、たくさんの学生から「私ができるのはこんなことですが」と聞かれ、書き損じはがき(1枚5円の寄付)をたくさん送ってくれたり、AWCの商品を有志の方が販売してくれたこともあって、売上金を新たな支援につなげることができています。また、ここで働きたいと連絡してきた学生を受け入れ、新しく講演会の企画などをしてもらったり、私たちも支援している、アーサーパッタナーデック財団の運営するストリートチルドレンの施設やAIDS/HIVで親を亡くした子どもたちを預かる孤児院に行かせてほしいと連絡してきた学生もいて、タイの山の中に住み込みで働くことを認めました。そういう若者たちとは今も連絡を取り合い、大人になった今でも活動に関わってくれています。
(興味のある子、熱意のある子に対して門戸を開いている、まさに“お母さん団体”です。今では、その若者たちは、アフリカで活躍していたり、人身売買について学を深め、大学の教授として活躍していらっしゃるそうです。実は、私はその教授の授業を2回ほどとったことがあり、すごいご縁を感じました。)
Q. 私たちのような学生ボランティアに求めることは何かお聞きしたいです。
A. ボランティアは人のためだけでは続かないと思うのね。私は、これをやらない自分とやる自分を俯瞰して見たときに、かなり大変なこともたくさんあるけれど、それを通じて成長している自分が好きという気持ちでやっています。もちろん人のためなんだけれど、この活動をすることは自分のためでもあるのだということをちゃんと感じてほしい。現実には困難なこともあるけれども、困難であればあるほど自分を磨いてくれるチャンスな気がするんです。
―“お母さんの力”=日本の力として
AWCが1998年に校舎建設をした時に中学1年生になった女性から、手紙が届いたそうです。彼女は苦労して奨学金を受けながら大学を卒業し、村のためになりたいと学校に戻って来ました。彼女は「日本の人々のおかげで中学校に行けた。その後の人生が大きく変わったのは日本のおかげである」と、高校、大学と日本語を学び、今は日本語を教えています。彼女は東日本大震災の時に、AWCの皆さんを案じて手紙をくれました。

~パッカモンさんからの手紙~
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2017年1月30日
佐々木
笹山, 宮川
<まとめ>
初めての取材で至らないことばかりでしたが、快くインタビューを引き受けてくださったAWC事務局長の山本様、そして読んでく
ださった皆様、本当にありがとうございました。お話を聞いていて感じたことは、「熱意」と「スピード」です。計画を練りに練っ
て行うというより、「「居ても立っても居られない」から、「子どもたちのためになるから」という熱意で、スピード感をもって同時に行っている姿勢に感銘を受けました。
自分にはスタッフの皆さまのように、清く美しい心がないと思っている方もいるかもしれません。私も同じです。山本さんがおっしゃられていたように「自分のため」でもいいのではないでしょうか。誰かの役にたっていると感じる自分が好き、と真っ直ぐな言葉はとても刺激的でした。継続するためには、自分のためということも大切な要素だと教えていただきました。この記事が一歩踏み出せず迷っている人の一助となれば幸いです。
あたたかく受け入れてくださったアジアの女性と子どもネットワーク様に御礼申し上げます。引き続き「日本支部第2弾」も更新します。読んでくださると嬉しいです。
アジアの女性と子どもネットワーク 団体HP:http://www.awcnetwork.org/index.html