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2017年2月8日に、タイ最大級のスラム地域である「クロントイスラム(Klong Toey slum)」を視察してきました。
クロントイスラムは、タイの首都バンコクに存在します。
今回は、このクロントイスラムの現状と問題について紹介します。
なお、ドゥアン・プラティープ財団(以下プラティープ財団)の職員2名が、案内役としてご同行してくださいました。


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<クロントイスラムの現状>
クロントイスラムの現状を、人口・仕事・暮らしの3つに分けて紹介します。
・人口
現在、クロントイスラム地域には15万人程度が住んでおり、スラム内人口は年々増え続けています。その中で、タイ人のみだけでなく、カンボジア、ミャンマーといった国外からの出稼ぎ労働者も約1000人在住しています。驚くべきことに、スラムに住む人々の5%はイスラム教を信仰しており、スラム内にはイスラム教信仰者用のモスクもあります。そして、プラティープ財団によって設立された学校には、現在約540人の生徒が通っています。
・仕事
スラムに住む人々の多くは、以下の方法で生計をたてています。
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タクシー、バイクタクシーの運転手として働く
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近くの港にて、荷物の積み下ろし作業等の日雇労働をする
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スラム内にて、手作りの商品(磁石付き食品サンプルなど)を売る
・暮らし
スラム内での暮らしの様子としては、意外なことにテレビ、扇風機などの家電が大多数の家庭に見られ、さらにスマホを所持している若者も少なくないそうです。元々は湿地帯の上にできたスラムで、人が住めるような状態ではありませんでした。しかし現在では、電気・水道等の生活に必要なライフラインはある程度整備されており、住民達はその代金も支払っています。一方で、スラム内には荒れ果てた建物もよく目につき、今後改築されるなどして使われる目途が立っていません。さらに、港から石油を運ぶ為に、電車が域内を横断しており、その線路付近に多くの人々が暮らしています。
<クロントイスラムの問題>
火事・衛生・教育・麻薬・離婚率・収入・爆発・立ち退きなど、クロントイスラムは様々な問題を抱えています。
・火事
数ある問題の中でも、火災による被害は特に深刻です。月に平均3件もの火事が起きており、その主な原因は漏電にあります(日本の電圧が100vに対し、タイは220vと高めです)。家々は立ち並び、消防車が駆けつけにくい立地のため、火の手を止めるために隣家を打ち壊すことが多々あります。しかし、不幸中の幸いとして、火災時の死傷者は意外にも少ないそうです。例えば、以前にスラム内で60世帯が全焼した際も、死傷者は1人もいなかったそうです。常に危険と隣り合わせという状況や、家具家電を失うという結果に、何も変わりはありませんが。また、全焼した家を再築するための費用は、1棟あたり約20万バーツ(60万円ほど)なので、決して安くはありません。この時、政府からは3万バーツ(9万円ほど)の資金援助が各家庭に与えられますが、お金は全く足りません。この時、お見舞金やお米を配当するなどして、プラティープ財団は火災被害にあった人たちを支援しています。このように、政府だけでは手が回らないところを、プラティープ財団は支援しています。しかし、スラムに住む人々は火災被害によって、金銭的にも精神的にも苦しみ続けています。
・衛生
スラム内の衛生面も良くありません。写真を見て分かる通り、道の至る所にゴミが放置されています。また、湿地帯の上に家を建てているので、汚水が溜まっています。さらに、雨期になると洪水が起き、それらのゴミや水がスラム内の低地に流れ込んでしまいます。上記のゴミ問題を解決すべく、プラティープ財団の取り組みとして、
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子供と一緒に「犬のフンを捨てないで」や「ゴミを捨てないで」などのメッセージをスラム内の壁に書くこと
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家にペンキを塗り、景観をよくすること
などがあります。これらによって、スラムの人々がゴミを捨てないよう訴えかけました。また、景観を良くすることで、犯罪の抑止にもつなげる意図もあります。
・その他
火災や衛生管理以外にも、クロントイスラムでは多数の問題を抱えています。
教育:子供は中学校を卒業後、港などに働きに出かけるため、高等教育を満足に受けられない
青年:麻薬の使用や、離婚率が高い
収入:タクシー運転手として働いている人は、自動車やバイクのローンを毎月支払うので、手元に残るお金はわずか
爆発:スラムに隣接した港に石油タンクがあるので、常に爆発の危険と隣り合わせ
立ち退き:現在の軍事政権では、立ち退きに関する議論が滞っているが、将来はすべての民家がクロントイスラムから出ていかなければならない
<まとめ>
・約15万人が住む、タイ最大級のスラム。
・ライフラインはある程度整備されている。
・火事、衛生管理、立ち退きなど、多くの問題がある。
スラムの中を実際に訪れることでしか得られない発見があります。例えば、日常英会話ができる女性が住んでいることに、私達は驚きました。第二言語を習得できるほど、教育環境は整っていないだろうと勝手に想像していたからです。そのような人がきちんとした就労の機会を持てれば、スラムを抜けて自立した人生を歩めるのではないか、とスラムの問題を身に染みて感じました。その他に、生活の匂いや音などは、自身で体感することで知ることができます。今回のスラム視察で、貧困の状況をより深く理解するために、実際に訪れることも必要だと感じました。
以上、クロントイスラムの現状と問題でした。最後まで読んでいただき、ありがとうございます。
また、スラム内を案内してくださったドゥアン・プラティープ財団に、厚く御礼申し上げます。
月に3件の火事!?
クロントイスラムの現状と問題