今回はシーカー・アジア財団の事務所を訪問させていただき、タイ人スタッフのリンさんにお話を伺いました。
「シーカー」は、サンスクリット語で「教育」という意味です。シーカー・アジア財団は、子どもや青年の教育支援を中心とし各事業に取り組んでいる団体です。シーカー・アジア財団は1991年までシャンティ国際ボランティアの同団体であるバンコク事務所として活動し、その後、同年の 9月に現地法人化されシーカー・アジア財団が誕生しました。法律上のタイのNPOになり、2年前に完全にシャンティ国際ボランティアから独立しました。
国内の戦争や貧困の地域に住んでいる子供達がそのひどい環境を抜け出すためには本しかないというシャンティ国際ボランティアの創立者達の理念を引き継ぎ、シーカー・アジア財団はコミュニティ図書館や移動図書館などの教育支援を行っています。貧困層のなかでもとりわけ子どもたち、青年たちの生活の質の向上を目指して努力しています。
現在、子供の教育に力を入れるだけではなく、スラムで暮らす女性に対する職業訓練、少数民族をはじめとした伝統文化継承活動も行っています。
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スラム街の現状について教えてください。
教育の場面に関しては、国の制度で高校まで授業料が無料なのでスラム街のほとんどの子どもが高校まで進学します。しかし大学からは全て自己負担になるため、大学に行く将来が見えない生徒は高校進学を諦めてしまいます。また、タイには大きな教育格差があります。簡単に言えば、スラムの子どもたちの身近に良い学校がなかなかありません。中間層が通う学校とスラムの子たちが通う学校は明らかに質が違います。スラムの子どもが大学に行くモチベーションを失くすのは、良い大学にはどうせ入れないと考えるからです。タイの社会において、中間層の子ども達とスラムの子ども達が交流する機会はほぼなく、その格差はまだ深刻なんです。大学を卒業できてもローンがあり、良い会社に入るのも難しいです。スラムを抜け出すのは簡単ではありません。
―学校の質が違うというのは、教える先生の質が違うのか、それとも施設や設備の質が違うのですか?
一番大きな原因は先生の質です。実はタイで教育学部に入る人は、先生になりたいというよりも他の文系学部に入れなかったからという理由が多いです。国も先生という仕事を大切にしていません。タイでは先生の給料が非常に安く、より発展途上国では学校の先生を大切な仕事だと考える国が多い一方で、タイでは先生をサポートする国の制度があまりなく、先生の仕事に憧れて目指す人も少ないです。
―スラムの子どもたちの家庭環境について聞かせてください。外で遊ぶ子どもたちが親と接触する時間は少ないのでしょうか?
まず、タイが日本と大きく違う点は、女性が働く社会だということです。結婚後に仕事をやめる女性は少なく、家庭において両親が共に働く社会です。両親の仕事が忙しければ、子どもに会う時間は少ないです。なぜタイでは女性が働く習慣があるのかというと、昔は大きい家族が多く、両親が働いていてもその代わりに祖父母が子どもの面倒を見ていました。しかし最近は大家族が少なくなり、遅くまで学校や塾に行ったり、一人で家にいる子どもが増えたと思います。
現在、スラムではどういった活動を行っているのか教えてください。
主に移動図書館とクラフト事業です。まず移動図書館ですが、昔からバンコク市内にあるスラム街を回っていました。
働いている子供たちは、社会の中で劣悪な環境で住んでいて、学校にも通えません。最近は、カンボジア・ミャンマー人の子どもたちの面倒を見たり、聴覚障害を持つ子供達の学校を回ったりもしました。聴覚障害を持つ子供たちに対しては、楽しんで絵本を読んでもらうためにジェスチャーだけを使うことに挑戦したりしました。
クラフト事業は女性を中心に活動しています。2017年の4月からオリジナルのブランドとして事業をスタートさせました。
クラフト事業自体はずっとあるのですが、今まではオリジナリティのある商品はなく、大体みなさんがチャトゥチャックマーケットなどでよく見たことのあるものと似た様なものを作っていました。2017年の4月から、日本人プロデザイナーの協力のもと、ボランティアの方達がデザインし、オリジナル商品を作ることを始めました。
昔は事務所でしか販売できてなかったのですが、最近は少しずつ販売イベントに出店する機会も増えました。また日本人向けのフリーペーパーが私たちNPOの活動をPRしてくれたおかげで、認知度が上がりました。
タイでボランティア活動をする上で課題はありますか?
まずタイ人としての視点から述べると異文化によって起こる問題です。このNPOでは、日本人が事業の計画を立てて、タイ人が実際に現場で事業を担当しています。その中で、日本人が考える事業があまり現地に合ってなくて失敗になってしまったことがありました。例えば、日本人がきれいなトイレを作ってあげたいと思っても、現地の文化ではそもそもきれいなトイレの文化がなく、なぜきれいなトイレが必要かどうかもわからない。だから作ったとしてもあまり意味がなかったということがあります。これは他の団体の例です。シーカー・アジアの例だと、日本から送られてくる絵本がタイやミャンマーの子にあまり読んでもらえないことがあります。日本語の上にタイ語やミャンマー語を張り付けているのですが、、やっぱり興味に合わなくあまり読んでくれません。また、隣のクラフト事業でも、日本人が計画を立てたときに、こういう商品がいい!、絶対売れますよ!と言っても、実際マーケットで売れないことがあります。本当に、異文化理解がないと難しいなと思います。したがって、そういう問題を無くすために、さらに現地の人達の意見も聞いていかないといけないと思います。
-どうしてタイ人が事業を実際に行うのに、計画は日本人が行うのですか?
このNPOが昔からずっと日本が運営している影響もありますし、企画担当の人があまり計画を立てるための知識が無いという理由もあります。例えば、絵本の読み聞かせは上手だけど、どうやって年間のイベントを企画するのか、どうやって対象地域を選ぶのかなど、そういうことについての知識がありません。だから、大きな計画は立てるために、様々な人と関わっています。
現在財団では、100人のタイ人スタッフと5人の日本人スタッフが共に働いています。タイ人が大半を占めているので、仕事のやり方や文化の違いなどでの違いは少なからずあります。特に時間への価値観が日本人とは違い、効率の良くない仕事の進め方に戸惑うことも多いです。
ボランティアの募集状況
現在ボランティアとして参加しているのは欧米の方は二人で、20人以上は日本人です。日本人の方は主に、駐在されている方の奥さんで、大体赴任の期間が3年くらいなので、ボランティアさんも3年ごとにかわります。やはり日本人の奥さんたちのコネクションは強いので、皆さんがここのことを紹介してくれて、それでよく来てくれます。
学生のボランティアさんも最近いっぱいいます。その場合は先生の紹介とか、学校でここに来てそれで興味を持って個人で連絡をくれる方もいます。
-私たちのように半年とか1年だけ留学している学生でも手伝えることはありますか?
今年も2、3人くらいいますよ。大体販売イベントを手伝ってもらったり、学生同士、5人とかで集まって企画をたてて、こういうことを子供に教えたいので事前に呼びかけてもらえませんか、というふうに提案してもらったりすることもあります。
Thinkのような学生ボランティア団体に期待することはなんですか
私たちNPOにとってPRあるいは情報発信はとても大切なことです。なので、学生のボランティア団体には、お金を通しての支援というよりも、クロントイスラムやタイ社会が抱える問題についての理解をより多くの人に広めてほしいです。例えばタイの社会においてクロントイスラムは麻薬のイメージが根強く、そこに住む人たちを見下す人も多いです。スラムを抜け出せないのは彼ら自身のせいだと思う人も少なくありません。このような社会が持つスラムに対するネガティブなイメージを変えることもNPOの重要な役割であり、学生ボランティア団体の皆さんにも積極的に協力してもらいたいです。
<まとめ>
今回は新たなメンバーとなり、初めての取材でした。取材の最後にスラム街を見学させてもらい、多くの子どもたちが無邪気に遊ぶ姿がとても印象的でした。リンさんのお話の中で、NPOは緊急性の高い小さな課題から解決していくとありましたが、スラム街で生活する人々に寄り添い、文化を理解して、彼らの抱える課題解決に貢献できるように当事者意識をもって活動することの大切さを学びました。
お忙しい中、ご協力してくださったシーカアジア財団さま、リンさまに心より感謝申し上げます。
シーカアジア財団 団体HP:http://sikkha.or.th/jp/
インタビュー
シーカーアジア財団

2018年2月11日
九里,塩澤,菅原, 諶,藤山, 星, 和田
