インタビュー
The Education for Development Foundation (EDF)
先日、バンコクにあるThe Education for Development Foundation以下、EDFさんにインタビューさせて頂きました。EDFは、タイの貧困により教育の機会に恵まれない子どものための奨学金支援を行うことを目的に、1987年に日本の現「民際センター」と同時に、タイ事務局として設立された団体です。現在、奨学金事業と企業のCSR活動を促進するプロジェクト事業などを中心に活動されています。
本日は、日本人や日本企業の対応を担当するJapanese Teamの一員であるアヌチャート Anuchat Khongmaさんと、唯一の日本人としてボランティアで手伝っておられるファンドレイジング・アドバイザーの植田禮治(うえだれいじ)さんにお話を伺いました。
Q. 最初は41人の子どもの支援から始まった奨学金事業ということですが、どのようにしてここまで大きな事業に拡大されたのでしょうか。
A. 設立当初、今の「民際センター」の代表理事がマスコミの力を使って「タイにはまだ学校に通えない子どもたちがいる」という記事を日本全国に広めたところ、すごく反応が多かったんです。日本では義務教育で中学まで通えるのは当たり前であった中、このようなタイの状況を初めて知り支援して下さった方がたくさんいらしたことで奨学金を支給できる子どもの数が増えてきました。
30年前、タイと日本のオフィスは同時に設立されましたが、当時イサーン地方にあったタイのオフィスでは、ただ日本からの寄付金を貰って管理し子どもたちに渡していただけでした。でも20年ほど前からタイ国内でもタイ人同士で支援できるのではないかとなり、その時からタイ国内の寄付金もあわせて増えてきたわけです。
イサーン地方
(タイの全人口の1/3が住んでいる地域。農業人口の割合が高く、人口の半数以上が貧困ライン以下の家庭。最初は、同地域の中学校に進学できない生徒の支援を中心にしていたとのこと。)
Q. 現在集まっている寄付金は日本からのものとタイからのものとでどれくらい割合なのですか。
A. 最近は日本からの寄付金は減っており、タイ国内からのほうが多いです。去年の実績で、11,000人の子供たちを支援することができましたが、その内訳は3,000人分が日本から、あとの8,000人分くらいはタイからでした。ますますタイ国内の寄付金の募集に力を入れるようになっています。
Q. 奨学金支給の対象となるのはどのような子どもですかまた、選考基準についてもお伺いしたいです。
A. 奨学金事業で現在支援している対象は、経済的に恵まれない子どもたちの①中学・②高校進学支援、③障がいのある子どもたちの支援小中高関係なく、④深南部のテロにより親を亡くし孤児となった子どもの支援90%はイスラム教の子どもたち、の主につに分けられます。
奨学生になるための条件はHPにもあるように、①本人に中学進学の意思があり、保護者も進学に賛成すること、②世帯の年収が30,000バーツ以下の貧困家庭であること、③品行方正であること、④公務員、区長、村長の子女でないこと、としています。年収の設定基準については、年収30,000バーツというのが貧困ラインと言われているので、そこに満たないという意味でこの設定にしています。
EDFでは、毎年度募金の締め切り日を設けていて、日本とタイから贈られてきた全ての寄付金が何人分の支援になるかを計算し、各県の教育委員会を通して「この学校には何人分の支援を提供できるか」を報告します。各学校はこの人数に基づいて募集をかけます。そして、先ほどの条件と合わせて、学校からこちらに送られてきた生徒の申請書類をもとに選考します。選考に成績は関係ありません。EDFの奨学金のコンセプトは多くの学生、成績関係なく、勉強する気持ちがある学生に奨学金を提供することだからです。
Q. 奨学金を必要とする学生自身が申請書類を提出してその中から選ぶということですが、生徒たちはEDFの奨学金のことをどうやって知るのですか。
A. 学校の先生からです。毎年のことなので、自分の先輩がもらっているのを見て知ったり、直接先生から奨学生の申し込みを勧められることもあると思います。すでに30年くらいやっていて教育委員会と学校との関係は密接にあるので、そういった情報は行き届いているはずです。
Q. タイでは中学校まで義務教育とされている中、なぜ中学進学に経済的な支援が必要なのでしょうか。
A. EDFの支援対象となっている学校は、バンコクにあるような大きくて綺麗な学校ではなく、各県の中心部からすごく離れていて全校生徒が平均150人ほどの小さな学校です。その周辺の村では、中学校に通うには街の中心まで出ないといけないのですが、そこまで通う財力がなく小学校までで終わってしまう家庭がほとんどであるという状況がありました。そのため教育省は、そのような地域の小学校では中学生まで受け入れることで義務教育を受けられる子どもを増やそうという政策を実施しました。EDFが支援しているのは、このように小学校と中学校が一緒になった、街から離れた小さな学校がほとんどです。
学費は無償なのですが、学校の規模によってもらえる予算の違うタイの制度の下では、小さな学校はその予算内で学校生活に必要な、教科書や制服、靴、カバンなど全てを生徒に提供することができません。何が提供されるかは各学校の予算管理次第ですが、せいぜい一つか二つです。私たちEDFの奨学金は、そのような学校がまかないきれない必需品を買うためであったり、昼食代、3~4キロ離れたところに住む生徒さんもいますので通学にかかる交通費などに充てられます。
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Q. 奨学金事業の他に力を入れている事業、プロジェクトはありますか。
A. CSR活動を促進する目的で、企業と協力して行うプロジェクトははEDFの主な事業の一つです。プロジェクト部門の人が特に力を入れていた、恵まれない地方にいる子どもたちに野菜と果物をもっと食べさせようという栄養系のプロジェクトがつい最近終わりました。半分は政府関係、半分はタイの企業などの団体から1500万バーツの支援金を頂いて、全国147校でキャンペーンを実施しました。助成金の管理のことや、最初に申請した通りにやること、毎日生徒に何食べさせるなど、細かい作業が多くとても力を使っていました。
今まで行なってきたものは企業ごとにその業種に合わせたオーダーメイドのような形式や、先ほどの栄養プロジェクトのように、複雑でアカデミックな知識が必要なのですが、これから進めていきたいのは、より多くの企業がCSR活動をしやすくするために簡潔化した、一般的な企業の方にわかりやすく提案できるプロジェクトです。具体的には、綺麗で安全なトイレの設置とランチプロジェクトの二つを考えています。
低予算でやりくりしている小さな学校では、洪水の時にトイレで子どもが亡くなるなど安全面に問題があったり、そもそも設置数が少ないという現状があります。そこで、例えば4つのユニットのきれいなトイレを作ったら20万バーツですと提案して、「御社ではいくつの学校に対して寄贈されますか」というようにアプローチしようと思っています。
ランチプロジェクトというのは、生徒の昼食用や学校収入のために校内で鶏を飼ったり、ナマズを養殖したりしている学校の活動を手伝いませんかと提案しようというものです。例えばなまず1000匹の価格を決めて提供する、というようなことが考えられます。このようにわかりやすく、どんな企業の方でも協力しやすい活動を今年はやっていきたいと思っています。
Q. どのような企業の方でもわかりやすいようにということで、やはり今までやったことのない新しい企業へのご提案を考えていらっしゃるのですか。
A. そうですね。できるだけ幅広く色々な企業にアプローチしたいと思っています。企業への提案、アプローチというのは活動する中で一番難しいことでもあります。とにかく書類を送ってみるのですが、反応がないこともありますし、NGOの仲介なくすでに自分たちでトイレ建設などのプロジェクトを行っている場合もあります。EDF含めNGOなど他団体と協力する場合は管理費が発生するため、独自にこのような活動を行う企業も少なくありません。
Q. 活動をするときに心がけていることはありますか。
A.[アヌチャートさん]現地に行ったことのない人にどのようにして現状を理解してもらい、その御理解と「思い」を奨学金の形で、必要としている子供たちしっかり届けていくか、ということです。
A. [植田さん]タイで活動する日本企業、タイで生活する日本人が、色んな意味でお世話になっているタイの為に、何か役に立ちたいといった人の輪を、いかに具体的な活動を通して広げていくかは、大変難しい課題ですが、やりがいのあることだと思って取り組んでいます。
Q. 国際協力に興味のある学生がEDFの活動に関われる方法はありますか。
A. インターンシップは時々、タイ人学生のみ受け入れています。日本人でも特別に受け入れていたお手伝いの方もいましたが、いつも受け入れているわけではないです。
他には、タイのインターナショナルスクールから今まで何件も募金を頂いてきました。学生さんの代表とできることを話して、学生たちは親から募金を集めたりフリーマーケットを開催してその収益を寄付金として頂くなどしました。
また日本の学生との関わりとしては、大学のタイ見学旅行のアレンジをすることもあります。現在行っているのは和歌山大学で、今年で6年目になります。二週間の中でホームステイや文化交流をするプログラムです。メインの一つには、日本から持ってきたものをバンコクのフリーマーケットで売って寄付金にするという活動があります。こういった見学・視察旅行の新たなアレンジは、内容次第では喜んで引き受けるつもりです。
Q. 最後に、今後の目標や展望がありましたらお聞かせ下さい。
A. 理想的には、義務教育を全員が受けられる、親が受けさせる社会の実現です。学校に行くための靴やかばんにお金を使うくらいなら働けという親がいるのが実態なのです。統計上はみんな学校に行っているように見えますけど、実際は小学校からいけない子が多い。また、奨学生になっても途中で学校をやめてしまう子も少なくありません。例えば、おばあちゃんと二人きりで住んでいて、国からの老人手当である月600バーツだけでは生活していけない。奨学金もらっても、働かなければ生活そのものが成り立たなくなる。でも、朝時に起きて働いて、それから学校へ行って勉強してというのはだんだん体にきてしまって、生活のために学校を辞めざるをえないケースが多いんです。
本当に貧困から学校に行けないこの事情を解決するというのが究極の目標です。難しいことなんですけどね。
インタビューを終えて
お忙しい中、私たちのインタビューに協力して下さったアヌチャートさん、植田さん、本当にありがとうございました。最初は日本からの寄付金で始まった奨学金事業も現在はタイ国内からの寄付金の方が多いということで、タイ社会の貧困に対する問題意識を高め協力の輪を着実に広げていらっしゃると感じました。バンコクの発展が目覚ましいばかりに、タイにもまだ支援が必要なところがあるということが見落とされがちです。現在タイはかなりの格差社会であるということ、そして外からの国際協力を仰ぐだけでなく、それを国全体で解決していく段階にあるのだということを改めて感じました。また、タイに長期滞在している一人の日本人として、タイのために何かしようと考える人を増やしていきたいという思いで活動されている植田さんの姿勢がとても素敵だと思いました。まだまだ未熟な私たちに優しく気さくに話してくださり、心にささる言葉をたくさん頂きました。
改めまして、取材の依頼を快く受け入れて下さったThe Education for Development Foundation様に深く御礼申し上げます。ありがとうございました。
民際センター HP: http://www.minsai.org/
カセサート大学近くのEDFさんの事務所にて。
2017年4月27日
笹山, 佐藤, 宮川
左: 植田さん 右: アヌチャートさん
インタビューの様子。
とても温かい雰囲気で対応して下さいました。
